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《 ブラックボックス 》

君のまん前に いるんだけどな 君 わかんない?」

「まん前?」

バタバタと音はしていますが 姿は 見えません。

「暗くて何も見えないわ あなた誰?」

するとバタバタ羽音に交じってしゃがれた声は

「おいらは文字通り 闇夜のカラスさッ」と言って

カァカァ鳴きました。

「カラス? 人間の言葉が 話せるのね。

 なんだか おとぎ話みたい。

 ここは 真っ暗だけど ひょっとして おとぎの国?」

美津子は カラスに尋ねてみました。するとカラス。

「残念でした。ここはブラックボックス。

 お望みとあらば おとぎの国だろうが どこにだって

 行けるとも。」と言います。

美津子は 少し首をかしげました。

「ブラック ボックスって…?」

 

するとカラス。

「外からみれば まんまるい黒い箱

 中に入れば果てのない真っ暗な空間。」

けれども 美津子には さっぱり わかりません。

「…あたし…お父さんのおみやげ その真っ黒な箱の

 中を覗いたわ…そしたら若葉色の小さな山や野原に

 小さな小さな村が見えたの。人もたくさんいたわ…。

 そしたら 歌が聞こえて…気がついたら ここ…

 真っ暗なの…。」

美津子は どうも わけがわからないので 今までの

いきさつを思い出しながら つぶやいてみました。

するとカラス。

「つまり…ここは 君が覗いた箱の中。

 だけど ここはブラックボックス

 箱には 壁があるけれど

 ブラックボックスにゃ 壁がない。」

カラスは 歌いだしました。

​しゃがれた声ですが、愛嬌のある歌声です。

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