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《 ブラックボックス 》

「ねぇ、カラスさん もしそのホワイトボックスへ

 行けなかったら どうなるの?」

「もちろん 君は 家へは帰れない。」

「帰れなかったら…どうなるの ? 」

「それは 君の運しだい。」

とんだゲームね…。美津子は ちょっぴり怖くなりました。

でも…もうえいままよ。ここで じっとしていても つまらない。

 

美津子は 思いきって このゲームにチャレンジすることに決めました。

「でも扉なんて どこにあるの? これじゃ選びようがないわ。」

するとカラス。 コホンと咳ばらいをして言いました。

「どんな扉でもいい 思いうかべてみればいいのさ。」

そう? 思い浮かべるの? 

美津子は  ふと自分の家の入口のドアを思いうかべてみました。

すると どうでしょう。彼女の目の前に 実物大の全く家のドアを

はずして持って来たかのような そのままのドアが、

すうっとうかびあがったのです。

「うはっ 全く びっくりさせてくれるわね。ねェ カラスさん。」

 

「これから どうすれば いいの?」

すると カラス パタパタとそのドアの外枠の上へ とまりました。

脚の爪だけが 見えています。

そして、

「この扉を開いて中に入ればいいのさッ

 ただし、もう一度 言うけど、一旦 入れば 2度と ここに戻ることは 

 できないよ。

 この扉の先は、ホワイトボックスへ まっすぐ行けるかもしれないし。

 入りくんでいて なかなか ホワイトボックスへは 行けないかもしれない。

 あるいは 全く ホワイトボックスへ 行けないかもしれない。

 それは 君の運しだい。…さぁ頑張って お嬢さん。」

美津子は ため息をつくと、あわてて尋ねました。

「ねぇッ 他の扉は?」

「扉なら いくらでもあるとも。ひとつの扉に入るまでは

 どの扉でも選べるよ。」

しかし美津子には 全く他の扉が見えませんでした。

 

とにかく 家に帰りたい。

思いきって 美津子は 目の前の扉を開いて見ました。

するとどうでしょう。

自分の家の玄関が あるではありませんか。

おなじみのゲタ箱もあれば 傘おけもあるし。

そこには愛用しているサーモンピンクの花柄の傘に

お母さんの傘、お父さんのコウモリ傘もあります。

​ただ違うのは、目の前の廊下が延々と続いて見えて、

すぐにあるハズのリビングがその先に見えない事です。

美津子は 2,3歩、ふらりと足を踏み入れてしまいました。

しまった! 美津子は思わず後をふりかえり、

戻ろうとしましたが、扉は音もたてずに閉まっていて

びくとも開きません。

どうしよう…と美津子は ドアにすがりついたまま おろおろとしました。

もしホワイトボックスに通じてなかったら?

その時、ドアの向こうから しゃがれた声が彼女を元気づけました。

「頑張りなよ お嬢さん、おいら応援してるからよ。」

美津子の心は うん と うなずいていました。

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